》はハープでもならすかな。」といいました。
ジャックが、そっとお釜のふたをあけてのぞいてみますと、玉でかざった、みごとなハープのたて琴《ごと》が目にはいりました。
[#空白は底本では欠落]鬼の大男は、ハープをテーブルの上にのせて、
「なりだせ。」といいました。
すると、ハープは、ひとりでになりだしました。しかもその音《ね》のうつくしいことといったら、どんな楽器《がっき》だって、とてもこれだけの音《ね》にはひびかないほどでしたから、ジャックは、金のたまごのにわとりよりも、金と銀とのいっぱいつまった袋よりも、もっともっと、このハープがほしくなりました。
するうち、ハープの音楽を、たのしい子守うたにして、さすがの鬼が、いい心もちにねむってしまいました。ジャックは、しめたとおもって、そっとお釜の中からぬけだすと、すばやくハープをかかえてにげだしました。ところが、あいにく、このハープには、魔法がしかけてあって、とたんに、大きな声で、
「おきろよ、だんなさん、おきろよ、だんなさん。」と、どなりました。
これで、大男も目をさましました。むうんと立ち上がってみると、ちっぽけな小僧が、大きなハープを、やっこらさとかかえて、にげて行くのがみえました。
「待て小僧、きさま、にわとりをぬすんで、金の袋、銀の袋をぬすんで、こんどはハープまでぬすむのかあ。」と、大男はわめきながら、あとを追っかけました。
「つかまるならつかまえてみろ。」
ジャックは、まけずにどなりながら、それでもいっしょうけんめいかけました。大男も、お酒によった足をふみしめふみしめ、よたよたはしりました。そのあいだ、ハープは、たえず、からんからん、なりつづけました。
やっとこさと、豆の木のはしごの所までくると、ジャックは、ハープにむかって、
「もうやめろ。」といいますと、それなりハープはだまりました。ジャックは、ハープをかかえて、豆の木のはしごをおりはじめました。はるか目の下に、おかあさんが、こやの前に立って、泣きはらした目で、空をみつめていました。
そうこうするうち、大男が追っついてきて、もう片足、はしごにかけました。
「おかあさん、お泣きでない。」と、ジャックは、上からせいいっぱいよびました。
「それよか、斧《おの》をもってきておくれ。はやく、はやく。」
もう一分もまたれません。大男はみしり、みしり、はし
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