ますと、れいのこびとは、三どめにまたやってきて、こういいました。
「さあ、こんどもわらを金につむいであげたら、なにをほうびにくれるえ。」
「あたし、もう、なんにもあげるものがないわ。」と、むすめはこたえました。
「じゃあ、こういうことにしよう。王さまのお妃におまえがなって、いちばんはじめにうまれたこどもを、わたくし[#「わたくし」は底本では「わたしく」]にくれると約束《やくそく》おし。」
(どうなるものか、さきのことなぞわかるものではないわ。)と、こなやのむすめは考えていました。
 それに、なにしろせっぱつまったなかで、なにをほかにどうしようくふうもありません。それで、むすめは、こびとののぞむままの約束をしてしまいました。そうして、こびとは、三どめにまた、わらを金につむいでくれました。さて、そのあくる朝、王さまはやってきてみて、なにもかも、ちゅうもんしたとおりにいっているのがわかりました。そこで王さまは、むすめとご婚礼《こんれい》の式をあげて、こなやのきれいなむすめは、王さまのお妃になりました。
 一年たって、お妃は、うつくしいこどもを生みました。そうして、もうこびとのことなんか、考えてもいませんでした。すると、そこへひょっこり、こびとがへやの中にあらわれて、
「さあ、約束《やくそく》のものをもらいにきたよ。」と、いいました。
 お妃はぎくりとしました。こどもをつれて行くことをかんにんしてくれるなら、そのかわりに、この国じゅうのこらずのたからをあげるから、といってたのみました。でも、こびとは、
「いんにゃ、生きているもののほうが、世界じゅうのたからのこらずもらうより、ましじゃよ。」と、いいました。
 こういわれて、お妃は、おろん、おろん、泣きだしました。しくん、しくん、しゃくりあげました。それで、こびとも、さすがにきのどくになりました。
「じゃあ、三日のあいだ待ってあげる。」と、こびとはいいました。「それまでに、もし、わたしの名前をなんというか、それがわかったら、こどもはおまえにかえしてあげる。」
 そこで、お妃は、ひと晩じゅう考えて、どうかして、じぶんの聞いて知っているだけの名前のこらずのなかから、あれかこれか、考えつこうとしました。それから、べつにつかいの者をだして、国じゅうあるかせて、いったい、この世の中に、どのくらい、どういう名前があるものか、いくら遠くでもかまわず、のばせるだけ足をのばして、たずねさせました。
 そのあくる日、こびとはやってきました。お妃は、ここぞと、カスパルだの、メルヒオールだの、バルツェルだの、でまかせな名前からいいはじめて、およそ知っているだけの名前を、かたはしからいってみました。でも、どの名前も、どの名前も、いわれるたんびに、
「そんな名じゃないぞ。」と、こびとは首をふりました。
 二日《ふつか》めに、お妃は、つかいのものに、こんどはきんじょを、それからそれとあるかせて、いったい世間《せけん》では、どんな名前をつけているものか聞かせました。そうして、こびとがまたくると、なるたけ聞きなれない、なるたけへんてこな名前ばかりよっていいました。
「たぶん、リッペンビーストっていうのじゃない。それとも、ハメルスワーデかな。それとも、シュニールバインかな。」
 でも、こびとはあいかわらず、
「そんな名じゃないぞ。」と、いっていました。
 さて、三日めになったとき、つかいのものはかえってきて、こういう話をしました。
「これといって、新しい名前はいっこうにたずねあたりませんでしたが、ある高い山の下で、そこの森を出はずれたところを、わたくしはとおりました。ちょうどそこで、きつねとうさぎが、さようなら、おやすみなさい、をいっておりました。そのとき、わたくしはふと、そのへんに一けん、小家《こいえ》をみつけました。その家の前に、たき火がしてありまして、火のまわりに、それはいかにもとぼけた、おかしなかっこうのこびとが、しかも一本足で、ぴょんぴょこ、ぴょんぴょこ、とびながら、はねまわっておりました。そうして、いうことに、
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きょうはパンやき、あしたは酒つくり、
一夜あければ妃のこどもだ。
はれやれ、めでたい、たれにもわからぬ、
おらの名前は、
ルンペルシュチルツヒェン。
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と、こうもうしておりました。」
 つかいの者の話のなかから、こびとの名前を聞きだしたとき、お妃はまあ、どんなによろこんだでしょう。みなさん、さっしてみてください。さて、そういうそばから、もうそこへ、れいのこびとはあらわれました。
 そうして、「さあ、お妃さん、どうだね、わたしの名前はわかったかい。」と、いいました。
 お妃はわざとまず、
「クンツかな。」
「ちがうわい。」
「では、ハインツね。」
「ちがうわ
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