ますと、れいのこびとは、三どめにまたやってきて、こういいました。
「さあ、こんどもわらを金につむいであげたら、なにをほうびにくれるえ。」
「あたし、もう、なんにもあげるものがないわ。」と、むすめはこたえました。
「じゃあ、こういうことにしよう。王さまのお妃におまえがなって、いちばんはじめにうまれたこどもを、わたくし[#「わたくし」は底本では「わたしく」]にくれると約束《やくそく》おし。」
(どうなるものか、さきのことなぞわかるものではないわ。)と、こなやのむすめは考えていました。
 それに、なにしろせっぱつまったなかで、なにをほかにどうしようくふうもありません。それで、むすめは、こびとののぞむままの約束をしてしまいました。そうして、こびとは、三どめにまた、わらを金につむいでくれました。さて、そのあくる朝、王さまはやってきてみて、なにもかも、ちゅうもんしたとおりにいっているのがわかりました。そこで王さまは、むすめとご婚礼《こんれい》の式をあげて、こなやのきれいなむすめは、王さまのお妃になりました。
 一年たって、お妃は、うつくしいこどもを生みました。そうして、もうこびとのことなんか、考えてもいませんでした。すると、そこへひょっこり、こびとがへやの中にあらわれて、
「さあ、約束《やくそく》のものをもらいにきたよ。」と、いいました。
 お妃はぎくりとしました。こどもをつれて行くことをかんにんしてくれるなら、そのかわりに、この国じゅうのこらずのたからをあげるから、といってたのみました。でも、こびとは、
「いんにゃ、生きているもののほうが、世界じゅうのたからのこらずもらうより、ましじゃよ。」と、いいました。
 こういわれて、お妃は、おろん、おろん、泣きだしました。しくん、しくん、しゃくりあげました。それで、こびとも、さすがにきのどくになりました。
「じゃあ、三日のあいだ待ってあげる。」と、こびとはいいました。「それまでに、もし、わたしの名前をなんというか、それがわかったら、こどもはおまえにかえしてあげる。」
 そこで、お妃は、ひと晩じゅう考えて、どうかして、じぶんの聞いて知っているだけの名前のこらずのなかから、あれかこれか、考えつこうとしました。それから、べつにつかいの者をだして、国じゅうあるかせて、いったい、この世の中に、どのくらい、どういう名前があるものか、いくら遠くでも
前へ 次へ
全5ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング