て、難船《なんせん》したとおもった商人の持ち船が、にもつを山とつんだまま、ぶじに港へ入《はい》って来たということが分かりました。さあ、うち中の大よろこびといってはありません。なかでも、ふたりの姉むすめは、あしたにももう、いやないなかをはなれて、町の大きな家へかえれるといって、はしゃいでいました。そして、もうさっそくに、きょう、町へ出たら、きものと身の飾《かざ》りのこまものを、買って来てくれるように、父親にせがみました。
「それで、ラ・ベルちゃん、お前さんは、なんにも注文《ちゅうもん》はないのかい。」と、父はいいました。
「そうですね、せっかくおっしゃってくださるのですから、では、ばらの花を一りん、おみやげにいただきましょう。このへんには、一本もばらの木がありませんから。」と、むすめはいいました。べつだん、ばらの花のほしいわけもなかったのですが、姉たちがわいわいいうなかで、自分ひとり、りこうぶって、わざとなかまはずれになっていると、おもわれたくないからでした。
 さて、いさんで町へ出て行ったものの、いろいろめんどうな訴《そ》しょう事件《じけん》になって、船のにもつは、そっくりとり上げられ
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