た。それは、きのどくに、怪獣が半分死にかけて、夜、草原の上に、あえぎあえぎ倒《たお》れている夢でした。むすめは、涙にひたりながら目をさましました。それでいったん床《とこ》からおき出して、ゆびわを鏡の前の台において、また床にはいって、ぐっすりねむりました。さて、目をさましますと、いつか、また御殿へはこばれて来ているので、ほっと安心しました。それから、晩の食事の時まで、さんざん待ちどおしくくらして、はやく怪獣にあうことばかりおもっていました。ところが、八時がうち、九時が打っても、怪獣は姿をあらわしませんでした。
「ああ、わたし、ほんとうに、あのひとを、ころしたのではないかしら。」
そうさけんで、むすめは、庭へとびだしました。そして、夢でみた草原の所へ来ますと、そのとおり怪獣は気をうしなって倒れていました。むすめは、はっとして、そのからだをだきかかえました。すると、心臓《しんぞう》がまだうっているのが分かったので、ちかくの泉から、清水《しみず》をくんで来て、その顔にふっかけました。すると、怪獣はかすかに目をあいて、虫の息でいいました。
「お前が約束をわすれたので、わたしは物をたべずに死ぬかくごをした。でも、かえって来てくれたから、これで、せめてたのしく死ぬことができる。」
「いいえ、ラ・ベートは死んではなりません。」と、ラ・ベルはいいました。「あなたはいつまでも生きていて、わたしの夫になっていただきます。いま、わたしは、ほんとうにあなたを愛していることが分かりました。」
このことばが、さけばれたとたん、御殿じゅう、火事のようにあかるくかがやきだしました。五|色《しき》の火花が、大空にとびちりました。さかんな音楽のひびきが、大地《だいち》をふるわせました。
おそろしい怪獣のすがたは、どこにもみえなくなりました。
そのかわりに、こうごうしいまでに、りっぱな王子が、そこにいて、むすめの足もとに膝《ひざ》まづいていました。そして、むすめのまごころの力で、なが年とけなかった魔法の呪《のろい》がとけて、ほんとうの姿にかえられたことを、よろこんでいました。
でも、むすめには、まだそれがわからないのです。それで、心配そうな目で、怪獣のゆくえを追っていました。
「まあ、おきのどくなラ・ベート、わたしの怪獣さんは。」
「その怪獣が、わたしですよ。」と、王子がいいました。「あるいじわ
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