、わたしののぞみといったら、おとうさまが、いまどうしていらっしゃるか、知ることですわ。)
ラ・ベルがこう心におもいながら、ふと、そこの姿見《すがたみ》をのぞいたとき、ちょうど、父親のうちへかえったところが、そこに、うつりました。姉たちが、出むかえに出て来ました。かなしそうな顔はしながら、ほんとうは、妹の居なくなったのを、よろこんでいるのがわかりました。まぼろしは、一しゅんで消えました。ラ・ベルは、自分ののぞみを怪獣がかなえてくれたことを、ありがたいとおもいました。
おひるになると、ちゃんと、テーブルに、おひるの食事がならびました。食事のあいだ、うつくしい音楽が、ずっときこえていました。でも、きこえるだけで、たれも出てくるものはありません。夜《よる》になったとき、怪獣は出てきて、いっしょに夕食をしようといい出しました。ラ・ベルは、あたまのてっぺんから、足の爪《つま》さきまで、ぶるぶるふるわせながら、それでもいやということはできません。それを、怪獣がみて、自分をずいぶんみにくいとはおもわないかといって、たずねました。
「はい、おっしゃるとおりです。」と、むすめはこたえました。「だって、わたくし、心にもないことは申せませんもの。でも、とてもいい方だとおもっております。」
そんなことで、だんだんうちとけて、たのしく食事がすみました。すると、とつぜん、怪獣が
「ラ・ベルちゃん、あなた、わたしのおよめになってくれますか。」と、いいだしたので、むすめは、びっくりしてしまいました。びっくりしながら、それでも一生けんめい、
「わたし、いやでございます。」とこたえました。
怪獣は、うちじゅうふるえるほど、大きなためいきをつきました。そして、かなしそうな声で、
「お休み、ラ・ベル。」といいのこして、へやを出て行きました。むすめは、ほっとしながら、やはり、人のいい心から、きのどくにおもっていました。
こんなふうで三月ほど立ちました。怪獣はまいばんやって来て、いっしょに夕食をたべました。するうち、むすめは、だんだん怪獣のみにくい姿かたちに馴《な》れてきて、それよりかよけい、そのやさしい、よい心を、このましくおもうようになりました。ただ、あいかわらず、およめにならないかといいつづけるのが、きのどくで、苦しくなりました。それで、あるとき、もうおよめになることはやめて、いつもお友だちでい
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