び》に出るというのは、つらいものにちがいありませんでした。
 やっと、しょうきづいて見ると、もみの木は、ほかの木といっしょにわらにくるまれて、どこかのうちのにわのなかにおかれていました。そばではひとりの男がこういっていました。
「この木はすてきだなあ。これいっぽんあればたくさんだ。」
 そこへはっぴをきた、ふたりの男がやってきました。そしてもみの木を、りっぱにかざった、大きなへやにはこんでいきました。へやのかべにはいろいろながく[#「がく」に傍点]が、かかっていました。タイルばりの大きなだんろのそばには、ししのふたのついた、青磁《せいじ》のかめが、おいてありました。そこには、ゆりいすだの、きぬばりのソファだの、それから、すくなくとも、こどもたちのいいぶんどおりだとすると、百円の百倍もするえほんや、おもちゃののっている、大きなテーブルなどがありました。もみの木は、砂《すな》がいっぱいはいっている、大きなおけのなかにいれられました。けれど、たれの目にも、それはおけとは見えませんでた。それは青あおした、きれでつつまれて、うつくしい色もようのしきものの上においてありました。まあ、このさき、どんなことになるのかしら、もみの木はぶるぶるふるえていました。召使たちについて、お嬢《じょう》さんたちも出てきて、もみの木のおかざりを、はじめました。枝にはいろがみをきりこまざいてつくったあみをかけました。そのあみの袋には、どれもボンボンや、キャラメルがいっぱいはいっていました。金紙をかぶせたりんごや、くるみの実が、ほんとうになっているように、ぶらさがりました。それから、青だの、赤だの、白だのの、ろうそくを百本あまり、どの枝にも、どの杖にもしっかりとさしました。まるで人間かと思われるほど、くりくりした目のにんぎょうが、葉と葉のあいだにぶらさがっていました。まあにんぎょうなんて、もみの木は、これまでに見たことがありませんでした。――木のてっぺんには、ぴかぴか光る金紙《きんがみ》の星をつけました。こんなにいろいろなものでかざりたてましたから、もみの木は、それこそ、見ちがえるように、りっぱになりました。
「さあ、こんばんよ。」と、その人たちは、みんないっていました。「これでこんばん、あかりがつきます。」
 それをきいて、もみの木はかんがえました。
「いいなあ、こんばんからだってねえ。はやくばんに
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