鳥たちは、そんなはなしは、ちっともしてくれませんでしたからね。
「でっくりもっくりさんは、だんだんから、ころげおちたくせに、王女さまを、およめさんにしたとさ。そうだ、そうだ。それが世《よ》のなかというものなんだ。」と、もみの木はかんがえました。そしてあんなりっぱな人が、そうはなしたんだから、それはほんとうのことにちがいないと思いました。
「そうだ、そうだ、わたしだって、だんだんからころげおちて、王女さまをおよめさんにもらうかもしれない。」
 これで、あしたもまた、あかりをつけてもらって、おもちゃだの、金のくだものだので、かざられるのだと思って、もみの木はぞくぞくしていました。
「あしたはもうふるえないぞ。こんなにりっぱになったのだから、うんとうれしそうな、とくいらしいかおをしていよう。きっとまた、でっくりもっくりさんのおはなしをしてもらえるだろうし、ことによったら、イウェデ・アウェデのおはなしもしてもらえるかもしれない。」
 こうしてもみの木は、じっとひと晩《ばん》じゅうかんがえあかしました。

 つぎの朝《あさ》、召使たちがやってきました。
「ああ、きっともういちど、りっぱにかざりなおしてくれるんだな。」と、もみの木は思いました。けれども、召使たちは、木をへやのそとへ、ひきずっていきました。そして、はしごだんをあがっていって、屋根《やね》うらのものおきのうすぐらいすみへ、ほうりあげました。そこにはまるで、お日さまの光がさして来ませんでした。
「どうしたっていうんだろう。こんなところで、なにができるんだろう。こんなところで、はなしをしても、なにがきこえるだろう。」と、もみの木はかんがえました。そしてかべにもたれたまま、いつまでも、あきずに、かんがえつづけていました。――もうずいぶん時間がありました。なにしろ、いく日《にち》となく、いく晩となく、すぎて行きましたからね。けれども、たれひとりやっては来ませんでした。それでも、とうとうたれかが上がってきましたが、なにかふたつ三つ大きな箱《はこ》を、すみのほうへほうりだして行ったばかりでした。おかげで、もみの木は、その箱の下じきになって、かくれてしまいました。まあその木のいることなど、まるで、忘れられてしまったのでしょう。
「今は、そとは冬なのだ。地めんはかちかちにこおって、雪がかぶさっている。だから、あの人たちは、わたしを
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