ひ人間には高尚《かうしやう》な心の智慧といふものがあつて、それによつて胸のなかが光と喜びにあふれるとき、このいんきくさい「運命」をのり越えて精神の自由を得て、國のため、家のため、または自分の一身のためにも、安心してりつぱな行ひや苦しいつとめに、命をゆだねるだけの勇氣をふるひおこす力がそなはつてゐる、だからいい人間になるには、つい目の前にころがつてゐるけば/\しい、いやしい、物の慾にとらはれず、だれも心を高く大きく持つて、いはば神樣に近い智慧をやしなふ工夫がなくてはならない――まづかういふのが、すこしむづかしいやうですが、この「青い烏」の二つの物語を讀めば、しぜんに、おもしろく、わかつてくる作者のをしへです。
 メーテルリンク氏は、西暦で一八六二年八月の生れですから、今年はもう八十歳の老人です。ベルギー帝國では第一の國民詩人とたふとばれて、侯爵の位までもらつた人ですが、こんどの大戰で、國をのがれて、外國へ浪々《らう/\》の旅をつづけてゐます。でも、そんな老年になつてさういふ目にあふのは氣の毒だ、といつて同情する人があつたとしても、この老詩人は、にこ/\笑つていふでせう、「なあに、青い鳥はどこへ行つても窓《まど》の下でうたつてゐますよ。」と。
   昭和十六年の紀元節の日
[#地から3字上げ]譯者



底本:「青い鳥」主婦之友社
   1942(昭和17)年3月3日初版発行
   1946(昭和21)年1月20日第4刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※底本での題名は「はじめに」のみですが、便宜として副題に「「青い鳥」訳者序」を加えました。
入力:門田裕志
校正:大久保ゆう
2004年12月14日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全2ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング