かなしみのためにはげたのか、それもわかりません。兵隊は踊ッ子の顔をみました。むすめも兵隊を見返しました。そのうちからたがとろけていくようにおもいました。でも、やはり銃剣肩に、しっかり立っていました。そのとき出しぬけに戸がばたんとあいて。吹きこんだ風が踊ッ子をさらいますと、それはまるで空をとぶ魔女《まじょ》のようにふらふらと空をとびながら、だんろのなかの、ちょうど兵隊のいるところへ、まっしぐらにとびこんで来ました。とたんに、ぱあっとほのおが立って、むすめはきれいに焼けうせてしまいました。
するうち、すずの兵隊は、だんだんとろけて、ちいさなかたまりになりました。
そうして、あくる日女中が、灰をかきだしますと、兵隊はちいさなすず[#「すず」は底本では「ずず」]のハート形になっていました。けれども踊ッ子のほうは、金ぱくだけがのこって、それは炭のようにまっくろにこげていました。
[#挿絵(fig42379_02.png)入る]
底本:「新訳アンデルセン童話集第一巻」同和春秋社
1955(昭和30)年7月20日初版発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
入力:大久保ゆう
校正:秋鹿
2006年1月18日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全2ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング