るものか。生《い》き肝《ぎも》を取《と》られれば命《いのち》がなくなるよ。ごめん、ごめん。」
こういって猿《さる》は木の上から赤《あか》ンべいをして、
「それほどほしけりゃ上《あ》がっておいで。くやしくも上《あ》がれまい、わあい。わあい。」
と言《い》いながら、赤《あか》いお尻《しり》を三|度《ど》たたきました。
いくらばかにされても、くらげはどうすることもできないので、べそをかきながら、すごすご竜宮《りゅうぐう》へ帰《かえ》っていきました。
竜宮《りゅうぐう》へ帰《かえ》ると、竜王《りゅうおう》はじめみんな待《ま》ちかねていて、
「猿《さる》はどうした。どうした。生《い》き肝《ぎも》はどうした。どうした。」
と、大ぜいくらげを取《と》りかこんでせき立《た》てました。
外《ほか》にしかたがないので、くらげはせっかく猿《さる》をだまして連《つ》れ出《だ》しながら、あべこべにだまされて、逃《に》げられてしまった話《はなし》をしました。すると竜王《りゅうおう》はまっ赤《か》になっておこりました。
「ばかなやつだ。とんまめ。あほうめ。みんな、こらしめのためにこいつの骨《ほね》のなくなるまで、ぶって、ぶって、ぶち据《す》えろ。」
そこでたいや、ひらめや、かれいや、ほうぼうや、いろいろなおさかなが寄《よ》ってたかって、逃《に》げまわるくらげをつかまえて、まん中にひき据《す》えて、
「このおしゃべりめ。この出過《です》ぎものめ。このまぬけめ。」
と口々《くちぐち》に言《い》いながら、めちゃめちゃにぶち据《す》えたものですから、とうとうからだ中《じゅう》の骨《ほね》が、くなくなになって、今《いま》のような目も鼻《はな》もない、のっぺらぼうな骨《ほね》なしのくらげになってしまいました。
底本:「日本の神話と十大昔話」講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年5月10日第1刷発行
1992(平成4)年4月20日第14刷発行
入力:鈴木厚司
校正:大久保ゆう
2003年8月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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