くらげのお使い
楠山正雄
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《テキスト中に現れる記号について》
《》:ルビ
(例)海《うみ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)八|本足《ほんあし》
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一
むかし、むかし、海《うみ》の底《そこ》に竜王《りゅうおう》とお后《きさき》がりっぱな御殿《ごてん》をこしらえて住《す》んでいました。海《うみ》の中のおさかなというおさかなは、みんな竜王《りゅうおう》の威勢《いせい》におそれてその家来《けらい》になりました。
ある時《とき》竜王《りゅうおう》のお后《きさき》が、ふとしたことからたいそう重《おも》い病気《びょうき》になりました。いろいろに手《て》をつくして、薬《くすり》という薬《くすり》をのんでみましたが、ちっとも利《き》きめがありません。そのうちだんだんに体《からだ》が弱《よわ》って、今日明日《きょうあす》も知《し》れないようなむずかしい容体《ようだい》になりました。
竜王《りゅうおう》はもう心配《しんぱい》で心配《しんぱい》で、たまりませんでした。そこでみんなを集《あつ》めて「いったいどうしたらいいだろう。」と相談《そうだん》をかけました。みんなも「さあ。」と言《い》って顔《かお》を見合《みあ》わせていました。
するとその時《とき》はるか下《しも》の方《ほう》からたこの入道《にゅうどう》が八|本足《ほんあし》でにょろにょろ出てきて、おそるおそる、
「わたくしは始終《しじゅう》陸《おか》へ出て、人間《にんげん》やいろいろの陸《おか》の獣《けもの》たちの話《はなし》も聞《き》いておりますが、何《なん》でも猿《さる》の生《い》き肝《ぎも》が、こういう時《とき》にはいちばん利《き》きめがあるそうでございます。」
と言《い》いました。
「それはどこにある。」
「ここから南《みなみ》の方《ほう》に猿《さる》が島《しま》という所《ところ》がございます。そこには猿《さる》がたくさん住《す》んでおりますから、どなたかお使《つか》いをおやりになって、猿《さる》を一ぴきおつかまえさせになれば、よろしゅうございます。」
「なるほど。」
そこでだれをこのお使《つか》いにやろうかという相談《そうだん》になりました。するとたいの言《い》うことに、
「それはくらげがよろしゅうございましょう。あれは形《かたち》はみっともないやつでございますが
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