と、うさぎは木の舟《ふね》に乗《の》りました。たぬきは土《つち》の舟に乗《の》りました。べつべつに舟《ふね》をこいで沖《おき》へ出ますと、
「いいお天気《てんき》だねえ。」
「いいけしきだねえ。」
とてんでんに言《い》いながら、めずらしそうに海《うみ》をながめていましたが、うさぎは、
「ここらにはまだおさかなはいないよ。もっと沖《おき》の方《ほう》までこいで行こう。さあ、どっちが早《はや》いか競争《きょうそう》しよう。」
と言《い》いました。たぬきは、
「よし、よし、それはおもしろかろう。」
と言《い》いました。
そこで一、二、三とかけ声《ごえ》をして、こぎ出《だ》しました。うさぎはかんかん舟《ふな》ばたをたたいて、
「どうだ、木の舟《ふね》は軽《かる》くって速《はや》かろう。」
と言《い》いました。するとたぬきも負《ま》けない気《き》になって、舟《ふな》ばたをこんこんたたいて、
「なあに、土《つち》の舟《ふね》は重《おも》くって丈夫《じょうぶ》だ。」
と言《い》いました。
そのうちにだんだん水がしみて土《つち》の舟《ふね》は崩《くず》れ出《だ》しました。
「やあ、たいへん。舟《ふね》がこわれてきた。」
とたぬきがびっくりして、大《おお》さわぎをはじめました。
「ああ、沈《しず》む、沈《しず》む、助《たす》けてくれ。」
うさぎはたぬきのあわてる様子《ようす》をおもしろそうにながめながら、
「ざまを見《み》ろ。おばあさんをだまして殺《ころ》して、おじいさんにばばあ汁《じる》を食《く》わせたむくいだ。」
と言《い》いますと、たぬきはもうそんなことはしないから助《たす》けてくれと言《い》って、うさぎをおがみました。そのうちどんどん舟《ふね》は崩《くず》れて、あっぷあっぷいうまもなく、たぬきはとうとう沈《しず》んでしまいました。
底本:「日本の神話と十大昔話」講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年5月10日第1刷発行
1992(平成4)年4月20日第14刷発行
入力:鈴木厚司
校正:大久保ゆう
2003年8月2日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全2ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング