のでした。
 この、変窟な生活、不自然な眠りの中には、一寸想像も出来ないような、風変りな世界があるのです――それをお知らせしたいばかりに、このみじめな筆を執った訳なのですが――。
       ×
 私は、子供の時から、夢に不思議な魅力を持っていました。といって、子供の時は、まったく偶《たま》にしか見ることはなかったのですけど、それが、中学のなかば頃からは、殆んど毎夜のように夢の世界を彷徨《うろ》つき廻っていたのです。――その頃からです、夜が眠むられなくなったのは――。うつらうつらとしたかと思うと、夢を見てはっと眼をさまし、真暗な闇の中に、物の気を幻覚したり、夜風の梢を渡る音に怯えたりしては、又深々と床の中に潜込み、そして夢の続きに吸込まれて行ったのでした。
 ――あくる朝、ふと浅い眠りからさめて、あかあかと障子《しょうじ》に朝日がさしているのを見ると、なにかしらほっとした気持になって、なま暖かい床に、長々と寝たまま、昨夜の夢をあれ、これと一つ一つ思い出してみるのでした。そしてその僅かな時間が、私の一日の中で最も愉しい時間なのでした。
 その時分から昼間でも、いつの間にかぼんやりと雲の
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