い、或はただの、寧ろ狂人に近い変人なのだともいうけれど、いずれにしても、村人とは絶えて交際しない『変り者』であるということだけは一致していた。
その、森源の家は私の借りていた家から四五丁はなれた、低い谷間《たにあい》にあって、この辺では珍らしい洋式を取り入れた建て方のものであった。そこに行くまでには、自然の温泉を利用した温室が幾棟か並んでい、その温室の中には、蔓《つる》もたわわに、マスクメロンが行儀よくぶら下っているのが眺められた。
これは森源が考案したものだそうだけれど、今ではこの村のあちこちに、これを真似た自然温室が出来ていて、有力な副業になっているそうである。この点、森源は相当感謝されてもいい筈なのだが、しかし村人は彼に『変り者』という肩書をつけて、強いて交際しようとはしない――
私が、最初に森源に逢ったのは、散歩の途中、その温室でであった。
森源はカーキ色の仕事服を着て、せっせとマスクメロンを藁で作った小さい蒲団にのせ、それを支柱に吊り下げているところであった。私も、若しもこの男が人々のいう『変り者』ということを聞いていなかったならば、別に話しかけもしなかったであろうが、なまじ、予備知識を与えられていただけに、それに前いったような退屈さからの好奇心も手伝って、
「ほう、すばらしいものですね、これなら輸入ものに負けませんね」
といったものである。ところが、森源は、白い眼をあげて私を一瞥すると、
「ふん、輸入ものがいいと思ってるなア素人さ」
そう、ぺっとはきすてるようにいうと、知らん顔をして仕事の手を続けていた。
「ふーん、輸入ものは駄目かね」
「そうさ、当り前じゃねえか、このマスクメロンてものはな、時期が大切なんだ、蔓を切って船へ積んで、のこのこと海を渡ってくるようじゃほんとの味は時期外れさ」
やっとこちらを向きなおった森源は、はじめて見馴れぬ私の姿に気づいたように、手を休めた。
「なるほど、そういえばそうに違いない――、このメロンは年に何回位採れるんかね、一体」
「他じゃ順ぐり順ぐりにやってもいいとこ三回だろう、俺んとこじゃ、まずその倍だよ……」
「倍って、六回も採れるかね」
「そうさ、もっと採れるようになる筈だ」
「ほほお、何かそういう方法があるんかね」
「他の奴等みたいに、ただ温室は暖めればいいと思っているんじゃせいぜい三回が関の山さ。それ
前へ
次へ
全16ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング