だ。大体月までの平均距離は三十八万|粁《キロ》ばかりある。それを一秒間に五百米のスピードでロケットを飛ばして行ったとすると約八日と二十一時間かかるんだ。一秒に五百米なんていうスピードは一寸想像も出来ない。ましてそれだけのスピードを持たすための初速度は実に物凄いもので、たかが市内電車の急発車でもひっくりかえるような人間は、ロケットが飛出した瞬間に床に叩きつけられて死んでしまう位がオチさ。しかしそれの予防法は出来た。……が、第一回のロケットの出発の際に十分の一秒、つまり計算上|,《こんま》の打ちどころを一桁だけ間違ったために、いざそのロケットが月に到着する時になって七千五百二十六万四千米ばかりも喰い違いが出来た。えらいことさ。第一回のロケットはそうした訳で、月の通ってしまったあとの、空ッぽのところに飛んで行ったんだ……」
「……そして、どうなったんです」
「……そして、肝腎の月に行きあたらなかったから、そのロケット日章島第一号は、今も果てしもない大宇宙を飛んでいるよ。闇黒の零下二百七十度の中を――。無論もう酸素も食糧も尽きただろうから十五人の地球人の死骸を乗せた棺桶となったロケットが飛びつづけている。真空の宇宙だから止《とど》まることはない。無限に運動をつづけているわけだ……つまり、一つの星となってしまったのさ」
 流石に、細川三之助も暗然として、ドアーを閉ざした。そして
「なアに、こんどは成功するさ。もうすぐ月世界に、第一回の日章旗をたてて見せる。こんどは先刻《さっき》一寸いった整形外科へ案内しよう……」

       七

 その部屋の番号は第六六五号だった。
「さあ、中へ入って……」
 叔父はどんどん入って行った。中野も続いて行った。
 あの、慶子ソックリの美女を造る整形外科室と聞いて、中野は、一段と眼を欹《そばだ》てながら、ドアーを潜《くぐ》った。
 まだ奥にも部屋があるらしいが、その最初の部屋は、一寸病院の診察室といった感じだった。しかも、最早美女の施術は終ったのか、傍らの椅子に、ずらりと並んでいるのは、あまり人相のよくない男たちで、突然入って来た中野の方をじろじろ流し見ては、何か小声で囁きあっていた。
 細川三之助は、一向そんなことには頓着なく、奥でカルテを見ている白衣を着た禿頭の老人の所に行くと、しばらく何かぼそぼそと話しあっていたが、やがて、その二人は
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