触った。
(こいつが、なくなったらあの二人は飢え死だ!)
私は、思い切り遠くへ、その鍵を投棄てた。どこかで、チャリンと音がしたようだ。
「ふ、ふ、ふ……」
私は溜らなく可笑《おか》しくなって来た。私は、大手を振って訳のわからぬことを呶鳴りながら歩き続けた。
道はいつのまにか黒い坂道へかかっていた、空気は月光の下で、白い渦を巻いて流れていた。目の前には忽然《こつぜん》と巨大な瓦斯《ガス》タンクが立ちはだかっていた。細い雑木林は、悄々と鳴っていた。月はボロボロと光りの雫《しずく》を落していた。この世の中の全体が、何かトテモたまらなく、切っぱ詰《つま》って来たように思われて来た……。
底本:「怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像」ちくま文庫、筑摩書房
2003(平成5)年6月10日第1刷発行
初出:「探偵文学」探偵文学社
1935(昭和10)年12月号
入力:門田裕志
校正:川山隆
2006年11月13日作成
青空文庫作成ファイル:
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