と口を听《き》く度に、沸々と泡立つコップの中で、その迪子がニタニタと頽《くずお》れるように嗤うのである。
『バカ』
 力一杯コップを叩き落した。コップは石畳《たたき》に砕け、細片はギラギラと鋭角的な光を投げて転がった。……ころんころんころんと部屋の隅まで転がって行く破片《かけら》のシツッコさ……
『なんでェ、俺よか、酔ってやがる』
 内田君は熱っぽい顔をして床を睨んだ。
 その右頬に小っぽけな古傷が、「知らん顔」してくっついていた。



底本:「怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像」ちくま文庫、筑摩書房
   2003(平成5)年6月10日第1刷発行
初出:「自由律」
   1932(昭和7)年7月号
入力:門田裕志
校正:川山隆
2006年11月13日作成
青空文庫作成ファイル:
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