かに歌う小鳥の唄の中にも、血なまぐさい殺人のニュースが、死屍や腐肉の味覚が、無遠慮にまきちらされているのでございます。
四面楚歌――そんな妙な形容詞が、どうやら当篏《あてはま》りそうでございます。
私はもう疲れました。神経はバラバラに、脳髄は頸をかしげる度にサラサラと頭の中にくずれております。私は、その無気味な音を黙って、歯を喰いしばって、聞いていなけれげならないのでございましょうか。
皆様、あの目の前にひらひらする白い布が、白い幕が、死というものでございましょうか、ふッ、ふッ、妙なものでございますね。
皆様、この保養院の窓にはこんなに、みんな鉄柵が入れてありますけれど、こんなに目が荒らくちゃ――世間の出来事がすっかり聴えてしまいますよ。昨日、銀座に大火事がございましたでしょう――ない? そんなことはございませんよ。この赤茶けた畳の上にいてもすっかり解るんでございますから。恐ろしいことです。私は私自身が恐ろしくて堪らないのでございます。おや、もうお帰りですか、では又、皆様がこの恐ろしい「千里眼」にならないように、心からお祈りいたしましょう。
底本:「怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像」ちくま文庫、筑摩書房
2003(平成5)年6月10日第1刷発行
初出:「ぷろふいる」ぷろふいる社
1934(昭和9)年12月号
入力:門田裕志
校正:川山隆
2006年11月13日作成
青空文庫作成ファイル:
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