うのであろうか。木曾はテーブルの電話を引寄せて、郵便局に電文の照会を頼んだ、間もなく知らされた訂正電文は次のようなものだった。
――ケッコン[#「ン」に丸傍点]シマス、テツヅキヨロシクタノム――。
木曾礼二郎は、長い廊下を伝って、庶務室の方にゆっくりと歩いて行った。木曾はこの研究所の結婚手続というものを知らなかったのだ。それを聞かなければならない。
しかしゆっくりと歩きながら、それとは別に、科学の力について考えつづけていた。
原子破壊によって生ずる莫大なエネルギーなどというものが、一般人に誰でも利用出来るほど科学が進み、そして通俗化したならば、我々の文化は、飛躍的な大進歩を見るであろうと楽しく思っていた。しかしそれがもし一狂人の手に弄《もてあそ》ばれるようになったならば、この地球は、いつ、幾億の人類とともに、木ッ葉微塵に粉砕されるか知れないのだ。
木曾は、歩きながら、フト背筋一面に押付けられるような冷めたさを覚えていたのであった。
[#地から1字上げ](未発表原稿)
底本:「火星の魔術師」国書刊行会
1993(平成5)年7月20日初版第1刷発行
入力:門田裕志
校正:川山隆
2006年12月30日作成
青空文庫作成ファイル:
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