見あきやせまし朝顔の花

秋風にこころほどけて藤袴ほころびにけり著る人なしに

[#ここから3字下げ、1行20字組みで]
秋風三首。
[#ここで字下げ、20字組み終わり]

草の花うつくしよしと啼く蝉の声もまじれる秋の初風

いたづらに過ぎにし世さへしのばれて秋風ふけば心さびしも

荻の葉におとづるるこそさびしけれ風は心の無しと思ふに

[#ここから3字下げ、1行20字組みで]
雁四首。
[#ここで字下げ、20字組み終わり]

かりそめの世とや知るらん秋風にかりかりと啼く天つかりがね

有馬山いなの古江に雨すぎて蘆間の月に雁のおちくる

秋かぜは肌《はだへ》に寒し水門田《みなとだ》に雁の来て啼く時ちかづきぬ

淡路の海朝霧ふかし磯崎を漕ぎ廻《た》みくれば雁ぞ鳴くなる

[#ここから3字下げ、1行20字組みで]
失題。
[#ここで字下げ、20字組み終わり]

著るきぬの裾も乱れず紐しめて袴の折目《をりめ》世は正しかれ

[#ここから3字下げ、1行20字組みで]
家。
[#ここで字下げ、20字組み終わり]

壁草《かべくさ》に藁ぬりこめて竹ばしら茅《かや》の屋根こそ住みよかりけれ

[#ここから3字下げ、1行20字組みで]
一乗寺の里に住みける冬。
[#ここで字下げ、20字組み終わり]

板葺はあなかま音におどろきて鳥も立つまで打つ霰かな

[#ここから3字下げ、1行20字組みで]
時雨二首。
[#ここで字下げ、20字組み終わり]

晴れぬるか沖に青雲ほの見えてしぐれし風ぞ波に流るる

有馬山さわぐ印南野《いなの》の風《かざ》さきに笹原たたくむら時雨かな

[#ここから3字下げ、1行20字組みで]
霜。
[#ここで字下げ、20字組み終わり]

磯かげや朝日も知らずおく霜は汐のさすにぞ敢へず消えゆく

[#ここから3字下げ、1行20字組みで]
雪三首。
[#ここで字下げ、20字組み終わり]

見るかぎり八十島《やそしま》しろし薩摩潟沖縄かけてつもるしら雪

吹雪する黒牛潟《くろうしがた》の汐かぜに浪高からし船の寄りくる

葛城や時雨の雲の絶間よりほのかに見ゆる峰のしら雪

[#ここから3字下げ、1行20字組みで]
明治二十五年二月五日、ふと老が身のおぼつかなさを思ひつめて痴《し》れがましく打咽び、世をも子等をも恨みなどしつつ、昼つ方より夕までに二百首ばかり詠みける中に。

前へ 次へ
全40ページ中30ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 礼厳 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング