見あきやせまし朝顔の花
秋風にこころほどけて藤袴ほころびにけり著る人なしに
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秋風三首。
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草の花うつくしよしと啼く蝉の声もまじれる秋の初風
いたづらに過ぎにし世さへしのばれて秋風ふけば心さびしも
荻の葉におとづるるこそさびしけれ風は心の無しと思ふに
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雁四首。
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かりそめの世とや知るらん秋風にかりかりと啼く天つかりがね
有馬山いなの古江に雨すぎて蘆間の月に雁のおちくる
秋かぜは肌《はだへ》に寒し水門田《みなとだ》に雁の来て啼く時ちかづきぬ
淡路の海朝霧ふかし磯崎を漕ぎ廻《た》みくれば雁ぞ鳴くなる
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失題。
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著るきぬの裾も乱れず紐しめて袴の折目《をりめ》世は正しかれ
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家。
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壁草《かべくさ》に藁ぬりこめて竹ばしら茅《かや》の屋根こそ住みよかりけれ
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一乗寺の里に住みける冬。
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板葺はあなかま音におどろきて鳥も立つまで打つ霰かな
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時雨二首。
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晴れぬるか沖に青雲ほの見えてしぐれし風ぞ波に流るる
有馬山さわぐ印南野《いなの》の風《かざ》さきに笹原たたくむら時雨かな
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霜。
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磯かげや朝日も知らずおく霜は汐のさすにぞ敢へず消えゆく
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雪三首。
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見るかぎり八十島《やそしま》しろし薩摩潟沖縄かけてつもるしら雪
吹雪する黒牛潟《くろうしがた》の汐かぜに浪高からし船の寄りくる
葛城や時雨の雲の絶間よりほのかに見ゆる峰のしら雪
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明治二十五年二月五日、ふと老が身のおぼつかなさを思ひつめて痴《し》れがましく打咽び、世をも子等をも恨みなどしつつ、昼つ方より夕までに二百首ばかり詠みける中に。
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