実のちるおとさむし山寺の庭

世には似ずにほひめでたしわが山は紅葉も人に媚びぬなるらん

山寺の棚橋くぐるやり水も見えぬばかりに紅葉こぼるる

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旅中。
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ひとり行く影さへ細き夕づく日きゆる末より降る時雨かな

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落葉。
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蜘蛛《ささがに》の糸にかかりて黄ばみけり秋の形見の楢《なら》の一つ葉

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蝶。
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うかれきて花の木の間にぬる蝶は誰が山踏《やまぶみ》の夢路なるらん

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高野川のほとりに住みける頃。
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春の夜は隙間《すきま》がちなる宿もよし閨もる風に梅が香ぞする

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見たるままを。
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岡の辺や土とる穴の片くづれさかさまに咲くしら梅の花

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山吹。
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たふれたる野末の庵も旅人のかいま見てゆく山吹の花

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鶯三首。
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夢路かと猶たどられぬあけぼのの花のねぐらの鶯のこゑ

春雨のにほふしづくに羽ぬれて花の※[#「木+越」、第3水準1−86−11]《こむら》に鶯の鳴く

袖に染《し》むものならませば鶯のこゑや都の苞《つと》にしてまし

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生れける丹後国の与謝にまかりて。
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和野《わの》の鼻まはれば見ゆる橋立の松原づたひ鶯の鳴く

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燕。
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うつばりに黄なる嘴《はし》五つ鳴く雛に痩せて出で入る親燕《おやつばめ》あはれ

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春の歌の中に。
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野を寒み枯れたる梅を折り焚きて老いし畑守昼を待つらん

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西山別院に幡山教圓を訪ひて宿れる時。
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