に召せや千すぢの魔もからむ髪

ふる鏡霜に裂けたるこだまなし夜烏《よがらす》むせび黄泉《よみ》にや帰る

かたつぶりひさしに出でし雨ふつ日瓦にさきぬなでしこの花

たもち得ぬ才はたとへばうまざけの破《や》れし甕《かめ》にも似たるこの人

ましら羽の鳥に啣《ふく》ます花ひとつ武蔵のあなた十里におちよ (上総なる林のぶ子の君を懐ひまつりて)

髪なでて鏡ゆかしむ夜もありぬ夢にや摘まむしろ百合の花

わが袖も春のひかりの帰らじや牡丹|剪《き》らせて皷《つづみ》に添へば

雲に見る秋のうれひを葉に染めて泣くにしのぶに陰よき芭蕉

扇なす彩羽《あやは》の孔雀鳥の王おごりの塵を吹く春のかぜ

大原女《おはらめ》のものうるこゑや京の町ねむりさそひて花に雨ふる

おばしまの牡丹の花に額《ぬか》たれて春の真昼をうつつなき人

幸《さち》はいま靄《もや》にうかびぬ夢はまたしづかに降《お》りて君と会ひにけり

薔薇《ばら》もゆるなかにしら玉ひびきしてゆらぐと覚ゆわが歌の胸

せめてただ女神《めがみ》の冠《かむり》しろ百合の花のひとつと光《ひかり》そへむまで

地にわが影|空《そら》に愁の雲のかげ鳩よいづこへ
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