しがほや瓜《うり》ひとめぐり嗅《か》ぎても徃《い》ぬる

才《さい》なさけ似ざるあまたの少女見むわれをためしに引くと聞くゆゑ

わが恋はいさなつく子か鮪《しび》釣りか沖の舟見て見てたそがれぬ

白きちさき牡丹おちたり憂かる身の柱はなれし別れの時に

星よびて地にさすらはす洪量《こうりやう》の人と思ふに批《ひ》もうちがたき

花に見ませ王《わう》のごとくもただなかに男《を》は女《め》をつつむうるはしき蕋《しべ》

在《ま》さぬ二夜《ふたよ》名しらぬ虫を籠《こ》に飼ひぬ寝がての歌は彼れに聞きませ

耳かして身ほろぶ歌と知りたまへ画ならばただに見てもあるべき

ややひろく廂《ひさし》だしたる母屋《もや》づくり木の香にまじるたちばなの花

祭の日|葵橋《あふひばし》ゆく花がさのなかにも似たる人を見ざりし

精好《せいがう》の紅《あけ》としら茶の金襴《きんらん》のはりまぜ箱に住みし小皷《こつゞみ》

杉のうへに茅渟《ちぬ》の海見るかつらぎや高間《たかま》の山に朝立ちぬ我れ

八月や水蘆《みづあし》いとうたけのびてわれ喚びかねつ馬あらふひと

夕かぜの河原へ出づる小桟橋《こさんばし》いそぎたまふに
前へ 次へ
全33ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
山川 登美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング