もの指につたへて胸に入る神も聞きませ七つの緒琴《をごと》

こは天《あめ》か人のさかひかまた逢ひぬ飽かずと泣きてわかれにし君

まれびとに椎の実まゐる山ずみの静なる日や秋の雨ふる

わが袖に掩ひややらむかれ/″\の野花《のばな》はなれぬ蝶のましろき

わづらひかこれうらぶれか春のうすれ暮うするる夕栄《ゆふばえ》を見る

みづいろの帯ふさはずやみだれ髪花のしろきに竹の青きに

うつくしき水に小橋に名おはせて里ずみ三月《みつき》うらわかき人

その神のみすがた知らず御名《みな》知らず夢はましろの百合の園生に

まぼろしにうつらむものかわがおもひ紅きむらさき色のさま/″\

うたたねの額《ひたひ》にかづく春の袖|繍《ぬ》ひ来《こ》牡丹とこがねの蝶と

今はただ歌の子たれと願ふのみうらみじ泣かじおほかたの鞭

うつつなき春のなごりの夕雨にしづれてちりぬむらさきの藤

心とはそれより細き光なり柳がくれに流れにし蛍

あゝ君よ心とわれと別れきぬ深山に似たる秋かぜの家[#「秋かぜの家」は底本では「秋かぜの」]

花や雨や野の紫や春のひと酔ひてしばしの夢まどろまむ

海棠の室《むろ》に歌かく春の宵もの
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