き犠《にへ》を見よしばしは燭《しよく》を百《ひやく》にもまさむ

そは夢かあらずまぼろし目をとぢて色うつくしき靄にまかれぬ

日を経なばいかにかならむこの思たまひし草もいま蕾なり

射あつべし射あてじとても矢はつがへ金《きん》の桂に額《ぬか》まける君

恋せじと書かせたまふか琴にしてともにと植ゑし桐のおち葉に

こがね雲ただに二人をこめて捲けなかのへだてを神もゆるさじ

手もふれぬ琴柱《ことぢ》たふれてうらめしき音をたてわたる秋の夕かぜ

何といふところか知らず思ひ入れば君に逢ふ道うつくしきかな

このもだえ行きて夕のあら海のうしほに語りやがて帰らじ

この塚のぬしを語るな名を問ふなただすみれぐさひとむら植ゑませ

紅《べに》の花朝々つむにかずつきず待つと百日《もゝか》をなぐさめ居らむ

ひとすぢを千金《せんきん》に買ふ王《わう》もあれ七尺みどり秋のおち髪

わが息《いき》を芙蓉の風にたとへますな十三絃をひと息《いき》に切《き》る

またの世は魔神《まがみ》の右手の鞭うばひ美くしき恋みながら打たむ

袖たてて掩ひたまふな罪ぞ君つひのさだめを早うけて行かむ

うつつなく消えても行かむわか
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