き子のもだえのはての歌ききたまへ
わすれじなわすれたまはじさはいへど常のさびしき道ゆかむ身か
われゆゑに泣かせまつりぬゆるしませよわき少女にいま秋のかぜ
わが胸のみだれやすきに針もあてずましろききぬをかづきて泣きぬ
狂へりや世ぞうらめしきのろはしき髪ときさばき風にむかはむ
裾きえて蕋《ずゐ》のまなかに立つと見ぬ天《あめ》の香をもつ百合花《ゆりばな》のうへ
うるはしき神の旅路と答《いら》へまつりともづな解かむ波のまにまに
をみなへしをとこへし唯うらぶれて恨みあへるを京の秋に見し (明治三十三年の秋)
にほひもれて人のもどきのわづらはし袖におほひていだく白百合
さらば君氷にさける花の室《むろ》恋なき恋をうるはしと云へ
その涙のごひやらむとのたまひしとばかりまでは語り得れども
その浜のゆふ松かぜをしのび泣く扇もつ子に秋問ひますな
狂ふ子に狂へる馬の綱あたへ狂へる人に鞭とらしめむ
薄月に君が名を呼ぶ清水かげ小百合ゆすれてしら露ちりぬ
とことはに覚むなと蝶のささやきし花野の夢のなつかしきかな
聴きたまへ神にゆづらぬやは胸にくしきひびきの我を語れる
手づくりのいちごよ君にふくませむわがさす紅《べに》の色に似たれば
里の夜を姉にも云はでねむの花君みむ道に歌むすびきぬ
紅梅にあわ雪とくる朝のかどわが前髪のぬれにけるかな
なにとなく琴のしらべもかきみだれ人はづかしく成れる頃かな
心なく摘みし草の名やさしみて誰におくると友のゑまひぬ
われ病みぬふたりが恋ふる君ゆゑに姉をねたむと身をはかなむと
髪あげて挿《さ》さむと云ひし白ばらものこらずちりぬ病める枕に
野に出でてさゆりの露を吸ひてみぬかれし血のけの胸にわくやと
世は下《した》にいかにも強ひようるはしき日知らで土鼠《もぐら》土を掘るごと
ぬる蝶のなさけやさしみ瓜畑のあだなる花もひとめぐりしぬ
雲きれて星はながれぬおもふこと神にいのれる夕ぐれの空
かがやかに燭《しよく》よびたまふ夜《よ》の牡丹ねたむ一人《ひとり》のうらわかきかな
かずかずの玉の小琴をたまはりぬいざうちよりて神をたたへむ (新詩社をむすび給へる初に)
指の環を土になげうちほゝゑみし涙の面のうつくしきかな
うるはしき[#「うるはしき」は底本では「うるはきし」]マリヤを母とよびならひわかき尼ずみ寺に年へぬ
誰がために
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