る。内儀さんは眸を凝らして視ている。毛虫が四つ目の桟を越えた時、内儀さんは障子へ手をのばした。毛虫はひとうねのぼった。内儀さんは持っていた針を突き刺した。毛虫は激しくうねった。うねりながら針に刺された体が反りかえった。緑色の汁が障子を伝って糸のように垂れた。内儀さんの眼は毛虫を離れないでいる。やがて、うねりが止んで、針に刺されたままの黒い体が高く頭をもたげて反りかえった。

     四

 秋風が肌に沁みるようになってきた。
 袋町のお初の家へ馬淵の爺さんはここ数日姿をみせない。内儀さんが余程悪いのだろう、と母娘のものは話しあっている。早くまあ仏様のお仲間いりをしてくれればいいに、とおっ母さんはこっそりと独り言を云うて仏壇へお燈明をあげる時も内儀さんがもう仏様にでもなったつもりでお念仏を唱えている。
 お初は内儀さんが悪いときいてからは妙に気が落付かない。その寿命を縮めているのが自分のような気がしてならないのだ。あとで報いがこなければいいが、と今から怖気《おじけ》ている。内儀さんの片付くのを待つ気もちのおっ母さんは、母娘のものが馬淵の家へ乗りこむその日を嬉しそうに話しているけれど、こ
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