知らせで、子供の母親も一緒だと分った。
 子供からもよく手紙がきた。大きな字で「オバサン」と書き出してあった。ぎんは物足りなく寂しかった。まわらぬ口で「母チャン」と呼んで、涎れの顔をこすりつけてくる俊雄が思い出された。から[#「から」に傍点]乳をよろこんで吸うときの、乳房へあてがう小っちゃな手の感触が、悲しいほどの疼きで思い出された。そして「母チャン」と、なんべんも口の中で云ってみるのだった。
 俊雄からは手紙のたびにねだりごとだった。ランドセルがこわれてしまったの、東京鉛筆が欲しいの、遠足へ行く小遣いを呉れだのと、ひっきりなしだった。ぎんはわくわくしながら、手紙をよむとすぐに支度をして送ってやった。クレヨンの図画が届くと、会う人ごとに見せびらかした。「わたしンとこの子はね……」と、眉をひらいて、ありったけ自慢した。通いの娘たちは、またおぎんさんの「わしンとこの子」がはじまったと目まぜして、クスクス笑い合うのだった。
 クレヨンの図画には汽車と、もう一枚林檎が描いてあった。ぎんはそれを自分の部屋の壁に貼って、朝晩ながめくらした。
 輸入物の品不足で「あたりや」が小僧を廃し店を閉めるほど
前へ 次へ
全25ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
矢田 津世子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング