ラくなつてゐて、猫でも少し大きいのは通られない。これだけ考へて見ると、残つてゐる逃道は窓の外にはない。そこで前面の室の窓から逃げようと云つたつて、それは往来に集つてゐた大勢の人に見られるから出来ない。下手人はどうしても中庭に向いた室の窓から逃げたとしなくてはならない。この断案は精密な研究から得来つたものであつて見れば、あの窓からは逃げられさうもないと云ふやうな浅薄な反対を受けても、それでこの断案を飜すわけには行かない。そこでこの不可能らしく見えてゐる事が可能だと云ふことを証明しなくてばならぬ段取になるのだ。」
「あの室には窓が二つある。その一つの窓の側には家具なんぞは置いてない。窓は全形が見えてゐる。今一つの窓の下部は重くろしい寝台の頭の方で見えなくなつてゐる。全形の見える分の窓は密閉してあつた。僕の往くまでにもその戸を下から押し上げて開けようとしたものがあつたのだが、どうしても開かなかつたのだ。その窓の枠の左側には可なり大きい錐孔が揉んであつて、それに一本の釘が殆ど頭まで打ち込んである。今一つの窓を検査して見ると、やはり同じやうな釘が同じやうに打ち込んである。この窓の戸も下から押し上
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