ッの出家したのでしたね。評判の美男ですわ。」
「その男です。」
「皆さん、御一しよにカツサツキイさんの所まで此橇で往きませうね。そのタムビノと云ふ所で休んで何か食べることにいたしませうね。」
「そんなことをすると日が暮れるまでに内へ帰ることは出来ませんよ。」
「構ふもんですか。日が暮れゝばカツサツキイさんの所で泊りますわ。」
「それは泊るとなれば草庵なんぞに寝なくても好いのです。あそこの僧院には宿泊所があります。而も却々《なか/\》立派な宿泊所です。わたしはあのマキンと云ふ男の辯護をした時、一度あそこで泊りましたよ。」
「いゝえ。わたくしはステパン・カツサツキイさんの所で泊ります。」
「それはあなたが幾ら男を迷はすことがお上手でもむづかしさうです。」
「あなたさうお思なすつて。何を賭けます。」
「宜しい。賭をしませう。あなたがあの坊さんの所でお泊りになつたら、なんでもお望の物を献じませう。」
「〔A《ア》 discre'tion《ヂスクレシヨン》〕」(内証ですよ。)
「あなたの方でも秘密をお守でせうね。宜しい。そんならタムビノまで往くとしませう。」
この対話の後に一同は持つて来た生菓子
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