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第二の女 貴方……殿方でいらっしゃいますわ。
恐ろしい事にも度々お出会になった御方でございますわ。
私達の驚かない様にしずかにわけをお話しなさって下さいませな。
これだけの事を知って故を知らないのは尚恐ろしい気持がいたしますもの。
老近侍 荷の勝ちすぎるお望みじゃ……。が、ま、かいつまんで申せば法王様はあんまりお調子に御のりなされたと云うものでの。
お徳をあがめるものは日増にふえて御領地は日ましにひろがる法王様の御声がかりなら死ぬるのは欠伸《あくび》するより御安い御用と思うものが沢山になると陛下が、
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お前を法王に任ずる
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と仰せらるるのがお気に入らんでの。
第一の女 お気に入らないからと云って。
第二の女 お徳の高いお方だと伺って居りますもの。
まさか御|叛逆《むほん》ではねえ。
老近侍 もう、ずんと前からの事じゃと申す話でござるわ、陛下にお書面でお坊様のお役をきめる事はわしにさせて下されと申し越されてお出でなされたのはの。二三度までのお願にはお偉いお方じゃ程に陛下もおだやかに「ならぬ」とばかり仰せられていらせられたが度重なる毎にはお二人のお心が荒立って、
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力ずくでも
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と法王様がついお洩しになったのをお気のつかぬ間に陛下がお伝え知りなされたのが事の始りで今ではもう火をかけた爆薬《はぜぐすり》の様にまことにはや危い御様子じゃとな……。何せ苦々しい事でござるわ。
第三の女 神様は敵を愛せと仰せられていらっしゃいますのに……
老近侍 それが人間と云う名から逃れられぬ証拠でござるわ。
まして強いもの同志の「けんか」は昔からともだおれときまって居る事での。
第二の女 法王様は神の御子だと聞いた事がございますわ。それで人なみ以上の御力をお持ちだと――若しお二人の間にお争いでも起ったら悲しい事だけれ共勝は法王様にお譲りなさらなければならないでございましょうよきっと――
第三の女 この立派な御城も粉々になって仕舞うでございましょうよ、神様の御怒りと法王様の御心でねえ。そうしたらまあ私達はどこに住むんでございましょう。
雪の降り込
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