[#ここから4字下げ]
小姓にたすけられて下手から消える
王がたった一人になる。
さっきいいかげんに見たフランコニア公からの書きものを見る。
よんで居るうちに段々けわしい顔になっていきなりそれをさいてなげつけてしまう。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
王 何じゃ。
神の御名によって□□□□[#「□□□□」に「(四字分空白)」の注記]と云い居るわ。
破門までうけた王をいただく事は体内を流れて居る貴族の血がゆるさん、と申し居るわ。
叛くなら心のままに叛くがよいのじゃ。
そなた達の軍にせめよせられて自ら喉をつくほどの意くじなしではないのじゃ。あわれなうじ虫共は口惜しまぎれの法王にそそのかされて裏に裏の心はようもさぐらいで只がやがやとわめいて居る――
[#ここから4字下げ]
王の亢奮した神経はあたりの静けさにつれて次第にしずまって来る。
しずかに考え深く。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
王 只らちものうさわぎたてる愚者を兵力で押える事はわけもない事じゃ。
したがわしは兵を殺す事はよう望まぬのじゃ。
この先致さいではならぬ事が多い程にのう。
わしは一番良い方法を考えねばならぬ。
これ! 頭よ、
いつもよりまいてかしこくなってお呉りゃれ。
[#ここから4字下げ]
ややしばらく沈黙。
ゆるやかな歩調で部屋を歩き廻る。
雪が降り出した音がサラサラ……サラサラと響く。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
王 やや、何と申す? あやまれ? これ頭よ! はっきりと澄んだ眼をよう見開いて答えて御呉りゃれ、わしはの、あやまる事は大のきらいなのじゃ。
人に頭を下げるのがきらいなのじゃ。これまでわしはそれを致さいでも事がすんで居ったほど賢うてあったのじゃからの。
[#ここから4字下げ]
前よりも粉雪の音ははげしく炉の火はすっかり絶える。
王は前よりも早くいらいらした調子に部屋を歩いて無意識にまどによる。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
王 おお降るわ! あの降りしきる雪の様にわしの心にも快い智恵が降りつもって呉れる事をのぞむのじゃ。
[#ここから4字下げ]
王は低くうなる様に云って炉を見て急に寒さを感じた様にひろ
前へ
次へ
全33ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング