陽と共に歌い出て月に挨拶致いてからねぐらにもどったと申す事じゃ。
ところが或る日柄にない力にまかいてこれぞと云う目あてものうて朝早くから飛び出《いだ》いた。神の御社を下に見ながら大きな御館の上を越して飛んでまいるうちに天気が急にかわっていかい大風になって参ったので小鳥はそのかくれ家《が》を求めて居るとすぐそばに己れの飛んで居るより高い所にその梢のある大木が見つかったのでそこの葉かげに美くしい身をかくいた。
小鳥は木のかげでこの強い風にゆらりともせいで居る大木をいっち偉いものじゃと思うたので風がおさまってから己の棲家に羽根を休むるとすぐ、
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お恵み深うていらせらるる天の神様
私の美くしい姿と声を御返しいたしますほどに今日私の宿を致いてたもったあの木と同じにさせて下され
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と祈ったところが、地面の穴からそれをききつけた悪魔奴は人の悪い笑い様を致いてから、
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叶えてつかわす
木はそなたの様に美くしい羽根はいらぬのじゃから皆ぬいて仕舞え
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と神の真似をいたいたのじゃ。
正直な小鳥は涙をこぼいて痛さを堪えて赤はだかになってしまうと又次の日悪魔奴は、
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木に嘴はいらぬ
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と申して見えぬ所から石をなげて嘴を折ってしもうた。
毎日毎日一つずつ大切なものを奪われて七日たった夕方は美くしかった小鳥は赤裸で一本の足で枯枝に止まって居った。
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神様、もう木になれまするか。
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死にそうな哀な小鳥はきくと、悪魔は大声あげて笑いながら、
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いずれそのうちにはなるじゃろう
木の芽生えの肥料《こやし》に――
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と申いた時小鳥は枝からころげ落ちて地面にポッカリあいて居った悪魔の穴の中にころげ込んでしまったと申す事じゃ。
長う話した事じゃ、欠伸は出なんだかな。
法 面白うお聞申いたから出ませぬじゃ。順礼に参った老人にきいた話でござ
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