費の点でもソヴェトでは例えば家賃、教育費、ある場合食費、電話料、電燈料、水道料等も各個人の収入との比例によって定まる。
画かきや作家等は一ヵ月の収入が不定だから、毎月の収入を届け出て、それに依って毎月家賃でも凡ての生活費の支弁率が変って来る。例えば作家クラブ等では、団体に属している作家は半額で食堂の食事が食べられる、五ルーブルの食事が二ルーブル半で出来る。その他金融、健康保護、休みの家、時には作家の家族の生活保証まで特種な組織があってやっている。
ソヴェトで或る組織の中に入って働いている人にとって、生活は一寸他の国で想像の出来ない根柢的な安心がある。そこで革命は無駄にやったことではないと痛感する。
所有権から利用権への推移
今のソヴェトの若い人の心持の中で、過去の人々のもっていた所有権と云う観念が、利用権と云うようなものの観念に変って来ている。何故ならば、小学校の教育時代から個人主義的な(自分のもの、自分が持たなければ使えないと云う)ものの考え方がすっかり変えられている。学校は食事も勉強に必要な学用品類をも文部省から支給されている、子供は勉強に必要なものは学校へ行けば有る。昨日Aという子が使ったものを、今日は自分が使う。明日いらなければ別の子がそれを使う、みんなにそれは必要な品である。必要だから皆が使う権利をもっている、そしてそれを自分だけで専有することは間違っていると云う心持が養成されている。クラブにしろ、種々な研究会に於てにしろ、凡てその主義で行われているから、自分で買込んだり貯め込んだりする興味が減って来る。益々社会主義的感情が、自然に若い時代の人々の附焼刃でない感情になっている、従って若い人々が自分の働く場所、生活する場所の文化的設備増大に対する関心は、注目すべきものがある。
中心になっているのは当然ピオニェール、コムソモールであるが、党員以外の若い者は、男女を問わず革命以前に見られなかった新人間として成長しつつある。
一般月給は最近二年間に、例えば四十五ルーブルだったものが今六十二ルーブルとる程度に上っている。[#地から1字上げ]〔一九三〇年十一月〕
底本:「宮本百合子全集 第三十巻」新日本出版社
1986(昭和61)年3月20日初版発行
初出:「時事新報」
1930(昭和5)年11月13、14日号
入力:柴
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