算が丸のみされて、戦争は進められたのだが、その数億にしろ、現実には一銭なしにはじまらないのである。字面を万単位にしたいかめしい政府の計算にしろ一円は百銭である、という子供が先ず覚えはじめる勘定の基礎に与えられているのである。そのかくれていても消すことの出来ない経済の土台の一銭の切手に、男女二人の農民の群像が現れたことは、何と意味ふかいことだろう。この絵は億の根拠が一銭であるとおり、日本の社会生活の土台にあるのは農民である、という事実を語っている。一銭のとおり目に立たず、何だ一銭、と扱われ、しかも、それがなければ万も億も成り立たない非常にどっさりの一銭のような日本の農民。しかもこの小さい四角い切手の面積に、わざわざ男女二人の働く農民を描き出したのは何故だろう。戦争は、農村から働く人手を奪った。女も働かなければならない。日本の勝利のため、天皇のために女も前よりもっと働け、そう強調されていた時だった。それ故図案には、農民に食糧増産させるために、切手の絵にかくからは女も入れて描いたのは当然のことであった。この切手を手にとって、沁々と眺めながら、わたしは、昔から今日まで「お上のもの」というものは
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