なっていることを示したし、同時にそれは、日本の権力者たちが、ますます内実の苦しい、勝味のない侵略戦争を押しひろげて行ったことを示したのであった。
 三銭で手紙が出せた時代はわりあい長かった。四銭になってから七銭になり十銭まであがったのは最近数年の短い間のことである。獄中に家族の誰かをもっていた人たち、そして、家族の大切な誰かを出征させていた人たち、その人たちにとっては、郵便切手が実に特別な意味をもっていた。出征している人々と家族とのあいだの幾千里をつなぐ愛情のよすがの便りは郵便であったし、獄中と外との生活は、切手をはられた郵便で、やっと交通を保ちつづけた。
 獄中で封緘が買いにくくなってから、私は友達にたのんだりして、封緘を買い集めてそれを差入れした。買った当時は、その封緘に印刷されていた四銭ですんだものが七銭になって、別に切手を貼り添えなければならなくなった。二銭のハガキに一銭足さなければ役に立たなくなった。そして、一銭の郵便切手というものが、珍しく毎日に必要なものとなって来たのである。
 今からちょうど三年ばかり前のことであった。郵便局の窓口で十枚ばかり一銭切手を買った。ハイと若い
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