さらに行政整理では二百万人の失業が出るだろう。軍需補償のうち切りでは百万人が職をはなれるだろう。新聞はそう報じている。一方に、労働調整法が出来かかったりしているが、金融資本を守るためからの失業は誰にとっても脅かしの影となっていて、勤労大衆はまったく主権在民を実現して合理的に生産関係を独占から解放しなければ、生きてゆけないところまで来ているのである。そのきょう、私たちが、手紙に貼る切手の模様は何だろう。宮島の海の中の鳥居がかかれている。妙義山がある。観光日本のポスターがちぢめられて出て来ている。その上、七銭と二銭の切手とは昔のままの東郷・乃木で、国際裁判をからかっているように見える。私たちには私たちの気に入った図案の切手がほしい。そう思うのは、きょうの現実の中で決して私一人ではないと思う。
[#地付き]〔一九四六年十・十一月〕



底本:「宮本百合子全集 第十六巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年6月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
   1952(昭和27)年1月発行
初出:「労働者」
   1946(昭和21)年10・11月合併号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月14日作成
青空文庫作成ファイル:
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