る。主観的に、いやになったからわかれてやる、という態度が離婚の自由の正しい認識でないとともに、客観的には、離婚した母と子との生活保証がされる法律上の条件が必要であると共に、社会的に保証が実現される可能がなければ、離婚の自由[#「自由」に傍点]ということは欺瞞になる。
憲法や民法で、婦人の立場が男と平等に積極的に書かれる[#「書かれる」に傍点]ようになったというだけでは、殆んど空文にひとしい。社会の実際の日々に、すべての職場に、男女の働いて生きる人の必要を、社会的に、また法的に保証する方法が具体化されたとき、はじめて民主的というに値する。そういう社会をつくるために、男女が力を合わせて、あらゆる努力をし、あらゆる形でたたかってゆくことを、良心の行為として認めたとき、はじめて、民主が徹底するのである。選挙権というものを、女も、失業者も、大臣も、もっているというばかりが、民主ではない。
婦人の労働条件の改善、確保と、特に子供たちのための社会保障の真剣な検討なしに、結婚や離婚のことは話せない。――出来るだけ個人の経済負担の少い托児所、幼稚園、子供のための病院、療養所。憲法でいっているとおり、九年制義務教育の国家による保障さえ、実際には一つも行われていないとき、いまの社会事情のままでいわれる離婚の自由は、欺瞞的にきこえる。父親である男として、妻を離婚したあと、母を失った子供たちの境遇について心痛しないものはない。より人間らしく生きる道としてひらかれた一つの門から、より多くの売春婦と浮浪児を生み出すことを、わたしたちの社会的良心は肯定しない。この現実のままでは空文に終る結婚と離婚の自由を、真実に社会的責任に裏づけられたものとするために、私たちが試みるすべての生活改善の努力を、阻止しようとしたり、抑えようとしたりする権力をも、私たちは肯定しないのである。[#地付き]〔一九四八年四月〕
底本:「宮本百合子全集 第十五巻」新日本出版社
1980(昭和55)年5月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
1952(昭和27)年1月発行
初出:「女性の歴史」
1948(昭和23)年4月
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年6月4日作成
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