に、金、なじょにするだべ」
 ききなれたそれは福島辺の訛なので、私はぼんやりした好意をその体躯堂々たる農夫に対して感じた。彼が土を掘ってこそいるが、或る精神力のようなものをも持っていて、世界のいろいろな出来事に興味を感じ、その興味を裏づけるに必要な知識を、若い大学生から得たい心持でいるのがよく察せられた。
「支那、大分騒いでいるらしいが――どう云うんだっぺえな――政党争いみたいなもんだっぺえか」
 彼はつづけて質問的に云ったが、大学生達の居心地わるそうな、尻ごみした態度が明かになるだけで、一人が、
「さあ」
と曖昧に薄笑いしたぎり、必要な答えは与えない。傍でそれを観ると、やや老いかけた農夫の方が、生活力の素朴な感じの点で、青年である大学生よりずっと青年らしくあった。恐らく知識慾の上でも職業学生より、彼が活溌なのではあるまいか? そのような感情をもって観ていると、人のよい農夫は、自分の農夫であることや、無智であることを自覚し、学生に対して常にひかえ目であるのだが、どうしても衷心からの動きを制しかねた風で半ば独言のように云った。
「それでもはあ、民衆一体の仕合わせを目あてにしてやっているち
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