正しい労働から得られない実際、そしてまためいめいの家庭はインフレーションによって、せまいながらも楽しいわが家と歌われたそのつつましい安心のよりどころを失って、食べものの分配にからんでさえも、嶮しい感情がひそめられるような状態になっている。こういう周囲の下で自由であろうとする気持、伸びるだけ伸び、飛び立ちたい心もちでいる娘の気持は何を頼りに拡がってゆくのだろう。そこには、ここでいわなくてもすべての人にわかっている悲しい広い病毒に飾られた道がある。そして今日どれほどの若い女性たちが、その生活の半分は堅気でありながらかげの半分では時々その道を歩く娘として生きているだろう。あるいはまた、いま歩いている道はまともな道だけれども、実にその道はすれすれに誘惑ととなり合わせていることを感じて生きていることだろう。若い女性たちの中に、この頃、はっきりこういう危険な状態を見分ける鑑識ができてきた。一見ささいなこの実力こそ私たちが大きい苦痛と犠牲を払って進んできた一歩前進の最もたしかな収穫であると思う。若い女性たちは自分もその一人としてきょうの人生を歩いている女性の大群の道幅というものを見きわめはじめてきた
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