落をひきおこし、一方にすさまじい成りあがりを生み出しながら、中産階級は没落して、エリカ・マンさえ靴のない春から秋までをすごさねばならぬ状態におちいった。絶望し、分別を失ったドイツの民衆は、それがなんであろうと目前に希望をあたえ、気休めをあたえるものにすがりつき、いかがわしい予言者だの、小政党だのが続々頭をもたげた。
ヒトラーのナチスも、はじめはまったくその一としてあらわれた。当時のドイツは軍国主義教育でやしなわれていたから、戦争に敗けさえしなかったなら、という感情が民衆の心につよくのこっていた。そこへ巧みにつけ入って、ドイツ民族の優秀なことや、将来の世界覇権の夢想や、生産の復興を描き出したヒトラー運動は、地主や軍人の古手、急に零落した保守的な中流人の心をつかんで、しだいに勢力をえ、せっかくドイツ帝政の崩壊後にできたワイマール憲法を逆転させる力となったのである。
アメリカにわたってから、エリカ・マンが語った意味ふかい警告が、内山氏の紹介に録されている。それはエリカ・マンが「私はドイツにいるあいだ(中略)政治のことは政治家にまかせておけばよいというあやまった見解でした。私ども多くのもの
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