はいきなりくるりとでんぐり返りを打って、とろとろ、ころころ砂の斜面を転《ころ》がり落ちた。
「ウワーイ」
悌が手脚を一緒くたに振廻してそのあとを追っかけた。けろりとして戻って来ながら、
「とてもすてきだよ」
忠一は篤介にいった。
「やって御覧、海が上の方に見えるよ」
「どーれ」
篤介は徐ろに帽子を耳の上まで引下げ、腕組みをし、重々しく転がって行った。悌が、横になると思うや否や気違いのようにその後を追っかけた。
「ウワーイ」
「ワーイ」
「ウワーイ」
波は細かい砂を打ってその歓声に合わせるようさしては退き、退いてはさし、轟いている。陽子は嬉しいような、何かに誘われるような高揚した心持になって来た。彼女は男たちから少し離れたところへ行って、確り両方の脚を着物の裾で巻きつけた。
「ワーイ」
目を瞑《つぶ》り一息に砂丘の裾までころがった。気が遠くなるような気持であった。海が上の方に見えるどころか、誰だって自分の瞼の裏が太陽に透けてどんなに赤いかそれだけ見るのがやっとなのだ。が、こわいような、自分の身体がどこで止るか、止るまで分らず転がり落ちる夢中な感じは、何と痛快だろう! 転がれ!
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