の娘、細君にとっても正月になれば裾模様の晴着をつくり、「新家庭の迎年のお支度」をするなどということは、絶対に実現不可能である。実際においては資本主義社会の逼迫に圧せられて消えてしまった小市民的な婦人の伝統の夢を、そのままグラビヤの絵そらごとの上に生きながらえさせているだけでも、その小市民性への追随という点でブルジョア婦人雑誌の保守的傾向の一端を曝露している。世帯の切なさ勤めの切なさから、現代の社会機構に自然と疑を抱く婦人大衆の目を、そういう数々のグラビヤに吸いよせ、現実に対する階級的直視をしばらくでもはぐらかして行く効果に至っては、ブルジョア婦人雑誌の文化発展の上に演じている反動的役割を見過すことはできぬ。
 さらに、ブルジョア婦人雑誌の編輯者のポケットにある、編輯暦なるものを調べると、われわれはそもそもブルジョア婦人雑誌の包括する文化がいかに封建性の上に立っているかに驚かずにはいられないであろう。ブルジョア婦人雑誌は、編輯暦の最も重大な部分を「正月」「七五三」「新学期」「盆」「結婚月」などに占められている。これらの月、全日本のブルジョア婦人雑誌は同一の題目を編輯主題として、たがいに猛烈な競争をやり、附録をいくつもつけてダンピング的販売政策をとるのである。失業、賃下げ、次第次第の労働強化と工場・農村で闘っている恐慌下の勤労大衆の妻、娘の生活にとって、これらのブルジョア婦人雑誌の浮立った内容は何のかかわりがあろう!
 ブルジョア婦人雑誌の編輯暦は、普通去年も今年も一昨年もその順序においては変ることがない。三月にさえなれば「雛」「花見衣装」「新入学の子を持つ母親へ」という題目が、ブルジョア文化そのものの無気力を反映して反覆されるのである。けれども、その眠たげな反覆の間にも、反覆される主題の扱いかたに、最近は明らかな螺旋的推移が認められる。グラビヤの流行結髪の型がいつか推移しているばかりでない。調理案内に、名流婦人訪問記に、英雄伝、特別読物などに、ブルジョア文化のファッシズムへの前進が照りかえしている。昨今は営業政策の一つとして、婦人公論にしろ婦女界にしろ、恒常的な読者会を組織し、直接配布網の確立に努力している。この組織は、ブルジョア婦人雑誌の経営上あるまとまった経済基礎となるばかりか、婦人大衆に向って絶え間なく反動ブルジョア文化を宣伝煽動して行く上にもまた実に有効に利用されるブルジョア文化組織網となっているのである。それぞれのブルジョア婦人雑誌の地方における読者会というものは、自主的に活動し、自分たちのよむブルジョア婦人雑誌を通じて煽動されるままに、女子青年団、愛国婦人会などと、結果においては全く等しい反動的小集団となる可能が十分認められる。すでにブルジョア婦人雑誌の恒常的読者の何割かは、特に地方においては、女子青年団、処女会その他のブルジョア反動団体内の組織成員なのである。ブルジョア反動文化の婦人大衆を目標とするアジ・プロは、配布網の点から見るだけでも、決してあなどり難い組織をもっていることは明である。
 数多いブルジョア婦人雑誌の内容を一々検討する規準として、(一)ブルジョア婦人雑誌は生産、労働をどう取扱っているか、(二)時事問題=特に恐慌失業、帝国主義侵略戦争をどう取扱っているか。(三)国際性はどう取扱われているか。(四)科学知識をブルジョア婦人雑誌はどう扱っているか。(五)両性、家族問題をブルジョア婦人雑誌はどう扱っているか。以上の五項目を規準として、順次検査を進めて行くのが便利であろうと思う。[#地付き]〔一九三二年三月〕
[#未完]



底本:「宮本百合子全集 第十四巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年7月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第九巻」河出書房
   1952(昭和27)年8月発行
初出:「プロレタリア文化」
   1932(昭和7)年3月号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年5月26日作成
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