ループのブルジョア婦人雑誌を貫いて認められる共通ないくつかの特徴を列挙して見よう。第一、表紙の絵、大量なグラビヤ、插画などからはじまって全巻にあふれる極端な小市民性への追随。第二、ブルジョア的、編輯暦の年々歳々飽くことない反覆。第三、一般的経済恐慌につれて、ブルジョア婦人雑誌業者間の競争が激化され、最近各営業者が直接購読者を組織し配布網の確立に対する熱中を示し始めたことなどである。
 一九三二年の正月は日本において三百万人の失業者と、金再禁止による物価騰貴、農村の恐慌、深まる帝国主義侵略戦争の危機とのうちに迎えられた。それにもかかわらず、ブルジョア婦人雑誌の数十頁にさえわたる尨大な新年特輯グラビヤは、どこにも悪化する資本主義下の現実的生活の面、勤労大衆の闘争をとりあげてはいない。『主婦之友』を例にとってみると、巻頭以下女優をマネキンとした春着くらべ。婦人のウィンター・スポーツ用流行服紹介。宮川美子の歌劇「お蝶夫人」の写真物語、流行ハンドバッグ陳列。初春の髪かたち。子福者歴訪、俳優画報、出征将軍の家庭。男女俳優にポーズさせた「新家庭の迎年のお支度」等々が化粧品、銀行、薬品、印刷会社などの広告の間に無慮七十頁を占めている。『婦人公論』五十頁のグラビヤは、「新年を迎える髪」から始って、映画物語、執筆作家の写真自叙伝、キッコーマン醤油の広告に終っている。ここにも、『主婦之友』同様、男女俳優、舞踊家をマネキンとした「お年始のお客はこうして迎えましょう」という写真物語が盛られている。『婦人公論』は、やや進歩的な職業婦人、インテリゲンツィア婦人を読者の目標とする結果、グラビヤにも他の婦人雑誌にはない「女主人」という一種目を加えているのは注意に価する。しかも、撮影されている「女主人」は「おでんや」、フランス女の洋服店主、支那料理店主、東京一高価な靴店セキドの女主人、洋服布地店主など、つまり有閑婦人の消費的生活、浪費趣味をとりあげ反映しているにすぎない。失業労働者の妻、焼芋屋の女主人、青森地方飢饉地で出征兵士の残された妻が、蕨《わらび》の餅をこねている女主人としての必死の営みの姿などは、ブルジョア的欺瞞をもって婦人大衆の眼前から完全に覆いかくされているのである。
 経済恐慌による中間層の急速なプロレタリア化は、日本における小市民層の婦人大衆の日常生活をその根底からおびやかしている。ど
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