たの文章にかかれているようなことは、あなたとして、こと更こういう場所での一言として書かれなければならない今日の第一の大切なことなのであったろうかどうかと思った。何故なら、この文章で主張されているような意味での真実性は十分もっている作家としてあなたは日頃世間から見られている。そのことは、もとより御自身にも明瞭に分っていらっしゃるのだから。そして、私たち全体として持っているそれぞれの困難を克服する方法、努力というようなものが、共同的にされるべきことも、謂わば自明のことなのだから。私として飾りなく云うと、こういう紙面でのあい対がおのずから期待している性質を正しく活《い》かすために、例えば私などよりより深く見られるところに貴方がおられる或る種の文学放言などに対し社会的な意味を自覚している作家としての立場から公然たる一言を見出されなかったことが、何だか遺憾です。私たち作家の間で、お伽噺にあるよくばりのように、自分たちの持ち合わす誠実の量の抽象的なくらべっこなど全く必要がないばかりか、誠実そのものにしろ、日常の作家的進退の公私を貫ぬいた生きかたでだけ、存在を示し得るものと思います。[#地付き]〔一九三七年六月〕
底本:「宮本百合子全集 第十一巻」新日本出版社
1980(昭和55)年1月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
親本:「宮本百合子全集 第七巻」河出書房
1951(昭和26)年7月発行
初出:「読売新聞」
1937(昭和12)年6月9日号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年2月17日作成
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