下げたものにして与えた。それも一般にはしらさずこっそりやって、父兄をおどろかし、子供たちをがっかりさせている。学童の知能低下は、子供のつみよりおとなの責任であることは明瞭だ。文部省は、こそこそ教科書の小細工をするより世論はこれだけ真剣に発言しているのだからそれをバックとして、予算をとるために堂々奮戦し、世界の常識にも訴うべきである。文部省がおてもりのユネスコ準備会をこしらえようとしたからには、世界ユネスコの注意をも喚起したらよい。大学法案と云い、六・三制予算丸けずりのやりかたと云い、今の政府が国民生活の真の発展について、誠意をもっていない態度はあまりあらわにすぎる。
よりよく生きるため、より美しく平和に伸びるために必要な積極政策は圧しつけて、一方では考査特別委員会、非日委員会、新聞用紙割当改正、更にあらゆる方法での買収を可能にするような選挙法改正と、多数をたのむいまの政府のねらいどころはどこに向っているのだろう。「暁に祈る」吉村隊の身の毛もよだつ残虐行為は、正義のために裁かれなければならないと云いながら、近藤鶴代外務次官はその口で、太平洋同盟を云っている。日本を新しい危険と不幸にまきこむかもしれない戦争を挑発しつつ、そこにはびこるのは、根づよくのこっている日本のファシズムである。日本は、ファシズムの危険により多くさらされていると、国際的に見られているのは正しい。ニューヨークでは「世界平和のための文化科学会議」がもたれ、ソヴェト同盟からも作家ファジェーエフ、音楽家ショスタコヴィッチほか数名が代表として出席している。四月二十日からパリでひらかれる「平和擁護世界大会」へは、日本からも二十余名の人々が招待された。ファシズムに抵抗し、日本と世界の平和のためにたたかうのは、こんにち日本のわたしたちにとって、最も普遍的な生存上の権利である。
[#地付き]〔一九四九年四月〕
底本:「宮本百合子全集 第十六巻」新日本出版社
1980(昭和55)年6月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
1952(昭和27)年1月発行
初出:「青年新聞」
1949(昭和24)年4月12日号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月14日作成
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