る抒情的な作風で買われている作家であることは、意味深い一つの警告であると思う。たとえば岡本かの子氏、林芙美子氏のある種の文章がそうである。一人の作家が、秘密な使につかわれたことそのことは作家としての名誉ではないのである。装飾でもないのである。そういう面で役に立つならば、役に立てた人に対する徳義として沈黙しているべきことでもあろう。
 現在北支で経過している事件の性質は、全く素人の一市民として見ても、世界歴史の上に豊富、多岐な内容をもっていることがわかる。歴史小説の題材としての蒋介石の生涯は東洋史の新たな本質を語るものであり、彼の波瀾重畳に作用を及ぼす力は尾崎秀実氏の「南京政府論」(中央公論)が分析されている種類だけのものではないであろう。今日及び明日の作家には、文学の大道から、今日おびただしい犠牲を通じて行われている心を痛ましめる衝突と一刻も早く望まれる最善の解決とを、歴史性の動向につき入って観察し描破しようとする熱意、力量の蓄積、鍛練が希望されている筈である。

        国際作家会議
          中国作家に課せられた重荷

 第二回の文化擁護国際作家会議が去る七月四日からスペインで開かれたが、この会議がヴァレンシアからマドリッドに移り、更にヴァレンシアとバルセロナへ移動して、最後はパリに移ったことは様々の点から意味ふかい関心をよびおこす。第二回のこの会議は、開催された場所が物語っているとおりスペインの文化擁護を議題としていたのであった。
 スペインにおける旧い支配者たちによって内乱が企てられたのは去年の七月であった。二年目の今日では、独伊両国の干渉戦と化し、本質的に最も深刻な歴史的衝突の姿を示していることは周知である。殆どすべての学者、芸術家がマドリッド政府の側に在り、有名なセロの名手、私たちに馴染ふかいパブロ・カザルスが全財産を寄附したり、画家ピカソがスペイン美術をファシストの砲火から守るためにマドリッドのプラド美術館館長に任命されたりしているということを、僅かに『セルパン』のニュースで知り得る。

 文化擁護の会議には各国からの代表者八十名(日本代表はいない)ルードウィヒ・レン、マルロオ、ミハイル・コリツォフ、アレクセイ・トルストイ、アンナ・ゼーゲルス、エレンブルグ、ファジェーエフその他。会議は二十八ヵ国の作家組織の代表百名からなる国際事務局を
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