の鼓動とともにはき出される、そのわっしょ、わっしょという力のこもった声と、ザッザッ、ザッザッという地ひびきとは、ひろ子を泣かせて、涙を抑えかねた。まわりでもこのとき泣いている人がどっさりあった。涙で頬をぬらしながら、なお、その身内をせき上げるような熱い轟きを追って画面に見入っているひろ子の心の視野に、丁度その隊伍の消え去ろうとするかなたから、二重映しになって一人の和服姿の男が、風呂敷包みを下げ、草履ばきでこちらに向って歩いて来るのが見えるような気がした。こちらに向って歩いて来る人物はぼっつりとたった一人である。しかし、その透明な体の影をつらぬいて、なおわっしょ、わっしょという、ときの声が響いており、ザッザッ、ザッザッという地ひびきはとどろいている。透明な影のように画面から歩み出し、しかし、くっきりと着ている紺絣までも見える人物は、出獄したばかりのイガグリで、笑っていてそれは重吉であった。重吉は一人で歩いている。「君たちは話すことが出来る」と、今は工場の広庭でかたまって話している人々の間を、重吉は歩いて来る。「君たちは話すことが出来る」円く集って話している女のひとたちのよこを、重吉は歩い
前へ
次へ
全92ページ中90ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング