いていた。そして、折々その声にじっと耳を傾け、あの声に愛があると云えるだろうかと思った。一日に呼ぶ度数が多ければ多いだけ、それは単調な生活の倦怠の中に抑えられた女心の苛だたしさをひろ子の心につたえたのであった。
つや子の嫁入りの晩、ひろ子はその田舎町の料亭の座敷で、母のとなりに坐った。高島田に結び、角かくしをし、六月初旬に冬ものの黒い裾模様を長くひいて、仲人に片手をひかれた花嫁が立ちあらわれたとき、ひろ子は何とも云えない恐縮な思いがして、単衣の紋付の下に汗をかいた。角かくしの重い首をうなだれて入って来た花嫁に先立って、いくつもの箱を重ねた島台が恭々《うやうや》しく運ばれた。それは、花嫁からの土産であった。精一杯身を飾り、土産の品までもさし出して、見知らない石田の家の嫁になって来た若い一人の女の運命に対して、ひろ子は習慣の力のつよさというものに威怖を覚えた。
となりの室におかれた古いレコードが高砂やを謡っている間に盃がとりかわされ、記念写真が、同じ部屋で撮された。北支から帰還して二十日ほどたったばかりだった直次は、これも冬ものの黒羽二重の紋付に仙台平の袴で、汗にまびれながらも美しい若
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